相続放棄の受理が無効
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相談:3か月経過した相続放棄は無効ではないか
当社は、ある商社に、工作機械を3000万円で売りました。その商社との取引は、初めてであったので、社長のAさんに連帯保証人になって頂きました。
ところが、その商社は、機械を海外に輸出し、代金をもらったにもかかわらず、当社に代金を支払わない状態が続き、約5か月後、Aさんが亡くなり、会社は、破産しました。
Aさんの相続人(奥様と子供3人)は、Aさんの死亡後、6か月後に相続放棄をし、裁判所は、受理しました。
破産の配当は1%くらいです。
当社としては、相続人に請求したいのですが、相続放棄が受理されている以上、無理でしょうか。
当社の顧問弁護士は、相続放棄が受理されても、期間経過などの事由があると、受理が無効になる可能性がある上、金額が大きいので、訴訟をするメリットがあると言います。
いかがでしょう。
回答:受理されても、相続放棄は確定しない
相続開始(通常は、披相続人の死亡)を知ったとき、
3か月を経過すると相続放棄できません。しかし、裁判所は、相当な理由がある場合は、この期間は、相続人が相続財産の全部、または、一部を認識したときから起算すると、例外を認めています。
家庭裁判所の実務でも、相続放棄の申述を却下すべきことが明らかな場合を除き,相続放棄を受理し、受理証明書を発行します。
受理の段階で、相続放棄が確定するのではないのです。その後の裁判で、有効、(熟慮期間経過、法定単純承認事由の存在で)無効が決まります。
相談者のケースでは、相続放棄受理は、無効とされる可能性が大きいです。Aさんの法定相続人に対して連帯保証人の責任を求める訴えを提起すると良いでしょう。
判決
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大阪高等裁判所平成21年1月23日判決(出典:判例タイムズ1309号251頁)
上記認定事実によれば,控訴人は,春男が死亡した平成15年3月25日には,相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知
ったと認められ,その後,夏子や冬男に聞くなり,自ら調査することによって,春男の相続財産の有無及びその状況等を認識又は認識することができるような状況にあっ
た(少なくとも春男に相続財産が全くないと信じるような状況にはなかった)というべきであり,したがって,熟慮期間内に相続放棄又は限定承認をすることが可能であ
ったというべきである。
のみならず,控訴人は,熟慮期間経過後の平成15年12月25日,夏子や冬男に言われたとはいえ,本件遺産分割協議に応じて,春男に積極財産及び消極財産(約7
623万5200円の債務)があることを認識して,これらの一部を相続した上,本件土地について相続登記を経由し,夏子の管理の下とはいえ本件マンションの賃料を
収受したほか,控訴人の固有財産からも相続債務の弁済をしていたものである。
そうであれば,控訴人が被控訴人の本件訴訟提起まで本件債務の存在を知らずにいて,かつ,本件債務を加えると控訴人が本件遺産分割協議によって相続した消極財産
が積極財産を上回り,当事者間で本件遺産分割協議が無効になったとしても,控訴人は,遅くとも本件遺産分割協議の際には,春男に積極財産のみならず多額の債務があ
ることを認識し,これに沿った行動を取っていたといえるのであって,このような事情に照らせば,控訴人について,熟慮期間を本件訴状が控訴人に送達された日から起
算すべき特段の事情があったということもできない。
(4) したがって,控訴人がした相続放棄の申述は相続開始から3か月を経過した後にされたもので,その受理は効力を有しないものというべきである。
- 東京地方裁判所平成17年9月26日判決(出典:判例秘書)
(3)したがって,真正に成立したものと推定される本件契約書(甲1の1,2)によれば,請求原因(2、注 連帯保証契約)は認められる。
3 抗弁について判断するに,
C男が平成9年4月18日に死亡し,被告らがその相続人であること,被告らが,平成13年6月25
日,相続放棄の申述を行い,同年7月25日受理されたことは,当事者間に争いがない。
民法915条1項所定の熟慮期間は,相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起
算すべきものと解されるところ,本件についてみると,被告らは,仮に,C男の死亡当時,C男に多額の負債があることを知らなかっ
たとしても,弁論の全趣旨によれば,C男死亡の当時から,C男に不動産(東京都足立区○○a丁目の土地,同区○○b丁目の土地,
東京都荒川区××の土地)があることを知って,これらを被告ら及びD男がそれぞれ取得することを了解していたことが認められるの
であって,そうすると,結局,熟慮期間は,C男の死亡の時点から起算すべきである。
したがって,被告らがなした相続放棄の申述は
相続開始から3か月を経過した後になされたもので,その受理は,効力を有しないものというべきである。抗弁は理由がない。
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東京地方裁判所平成17年2月7日判決(判例秘書)
ウ 原告Aは,平成14年9月21日ころ,被告に対し,亡Cに対する貸金が総額6500万円程度になっているが,5000万円を返還して欲しい旨述べた。
エ 亡Cは,生前多額の借金を抱えており,被告は,亡Cの死後それを知ったため,相続放棄の手続をとることとし,平成14年10月16日ころ,G弁護士と相
談したが,本件第1保険契約及び本件第2保険契約のことは特に話さなかった。その後,被告は,争いがない事実(3)のとおり,3人の子供たちも一緒に,同月24日,
東京家庭裁判所に対し相続放棄を申し立て,同年11月1日,申立ては受理された。(乙1)
オ 被告は,G弁護士を通じて,平成14年10月30日付けで,原告Aに対し,被告や3人の子供が相続を放棄したことや,亡Cの資産はないことなどを通知し
た。(甲5)
カ 原告Aは,平成14年11月25日ころ,本件第2保険契約の取扱店であるIに電話をし,担当者であったJから,本件第2保険契約の契約者が変更になって
いることを聞いた。(甲8の1,2)
キ 原告Aは,平成14年1月20日付けで,被告及びその子供らに対し,保険契約の解約や契約者名義の変更等について指摘し,相続放棄が無効であるとして,
亡Cの借入金の支払を求めた。(甲6)
ク 被告は,G弁護士を通じ,平成15年2月5日付けの内容証明郵便により,亡Cの保険の名義変更を行ったことはない旨通知したが,その時点では本件第2保
険契約の名義人が被告になっていること,被告が本件第1保険契約の解約返戻金を保管していることなどについて明らかにしなかった。(甲7)
(2)本件第1保険契約に対する行為について
ア 民法921条1項本文における「財産の処分」とは,経済的価値のある財産の現状・性質を変ずる行為をいうと考えられるところ,被告は,本件第1保険契約
において,契約者を亡Cから被告に変更した後解約し,解約返戻金を得ていること(上記(1)ア)から,これは亡Cの遺産についての処分行為にあたるといえる。
イ 被告は,本件第1保険契約についての行為は,そのまま放置すれば保険契約が失効となってしまうため解約したとし,保存行為であるとする。確かに,被告は,
解約返戻金に相当する金額について,これを保管しているとするG弁護士の預り証(乙2の2)がある。しかしながら,被告は,平成14年9月19には,本件第1保険
契約の名義を換えており,原告Aからの裁判前の問い合わせや請求(上記(1)ウ,ク)に対して,解約返戻金があるにもかかわらず,亡Cには資産がないと回答した,
原告Aが相続人になりそうであるとの指摘をしながら,G弁護士においても返戻金を保管していることを明らかにしなかったこと(甲7)からすると,平成14年11月
12日の時点で,明確に保管金として預かったものとは考えられない。
さらに,被告は,本件裁判の途中まで,本件第2保険契約の名義の変更について,一旦被告名義に変更した後に保険会社に掛け合って亡Cの名義に戻したこと
(上記(1)イ)について,原告らの指摘に対してもその経緯を明らかにせず,事実と異なる主張をしていた(被告準備書面(1)参照)ことが認められる。
そうすると,現時点で当該金額をG弁護士が保管しているとしても,被告が,当初から保管する意思で解約返戻金を取得したと認めることはできず,本件第1
保険契約を解約して解約返戻金を取得したことは,亡Cの遺産を処分したものと認められる。
(4)よって,その余の点を検討するまでもなく,被告は,亡Cの相続につき,これを単純承認したものといいえる。
- 東京地方裁判所平成15年12月26日
判決(出典:判例秘書)
これを,本件についてみるに,被告らは,Cの死亡当日である平成13年8月22日にCが死亡したことを知っており(前提事実の(6)),この時点で,Cの兄
弟姉妹である被告らが法律上相続人であることを知ったと認められ,また,被告らは,Cの生前から,Cが本件土地建物を所有していることを知っており(前記1(5))
,本件土地建物がCに係る相続財産であることを認識していたことも認められる。そうすると,被告らが相続財産が全く存在しないと信じていたとはいえないから,被告
らについては,Cの相続に係る熟慮期間は,Cの死亡した日である平成13年8月22日から起算すべきであることになる。
これに対し,被告らは,相続人が,相続財産として積極財産が存在することを知っていた場合でも,消極財産が全く存在しないと信じていたときには,熟慮期間は
進行しないと解すべきである旨主張する。
しかしながら,熟慮期間が設けられている趣旨は,相続人が相続放棄(又は限定承認)をするか否かの判断をするために相続財
産についての調査を行うための一定の期間を設け,当該期間の経過により相続放棄等をなしえなくなるとすることによって,相続を巡る法律関係を安定させることにある
と解されるところ,相続人において,相続財産が全く存在しないと信じている場合には,相続放棄等をするか否かの判断のために相続財産の調査をすることは期待できず,
そのように信じるについて相当な理由がある場合には,上記のような法律関係の早期安定という要請を考慮しても,なお,熟慮期間が進行するのを認めるのが相続人にと
って酷であると考えられるからである。
そして,相続人が相続財産として積極財産が存在することを認識していれば,たとえ消極財産の存在を認識していなくても,相続
放棄をするか否かの判断のためには,消極財産の存否についても調査するのが合理的であって,これを期待することが相続人にとって酷であるとはいえず,このような場
合にも熟慮期間が進行しないと解することは,かえってその制度趣旨に悖ることにもなりかねない。
また,本件の具体的経過に照らしても,Cに係る相続財産である本件土地建物は不動産であって,被告らは,これを対象として本件遺産分割協議までしているので
あるから,Cに債務が存在するか否かの調査のために不動産登記簿を閲覧することは,通常考えられる容易な手段であり,そうすれば,本件登記がなされていることが判
明し,ひいては,Cが本件連帯保証に基づく債務を負っていることは容易に判明したはずであることなどの事情が認められるのであって,これらに鑑みれば,被告らがC
の相続財産としての消極財産についての調査を期待することが不合理であるとはいえない。
したがって,被告らの前記主張は採用できないといわざるを得ない。
3 以上によれば,本件申述は,熟慮期間を経過した後にされたものであって相続放棄の効果を生ぜず,被告らは,Cの本件連帯保証に基づく債務を法定相続分の割合
に従って相続したというべきである。
- 最高裁判所昭和29年12月24日判決
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理するには、その要件を審査した上で受理すべきものであることはいうまでもないが、相続の放棄に法律上無効原因の存する場合には
後日訴訟においてこれを主張することを妨げない。
- 大阪高等裁判所昭和27年6月28日決定(出典:家庭裁判月報5巻4号105頁)
抗告状添付の田中敬子の手記及び当審における田中敬子審訊の結果によると、田中敬子がその長男秀一の法定代理人として、秀夫のために被相
続人田中次郎の死亡に因る相続の開始があつたことを知つたのは昭和27年1月中旬であつて、右次郎死亡の昭和23年1月22日当時でなかつたことを認むるに
十分であり、原審における田中敬子の審問の結果は田中敬子の誤解にもとずいてなされた真実に反する陳述であることが胃頭掲記の証拠によつて明白であるから右認定を
なすの妨げとならない。
そうだとすると申述人田中秀夫の法定代理人である田中敬子が秀夫のために相続開始のあつたことを知つた日から3ケ月内である同年3月1日にな
した本件相続抛棄の申述は適法なものとして受理しなければならない。従つて右申述を却下した原審判は失当であるからこれを取り消す。然しながら右申述の受理は相続
抛棄の申述のあつたことを公証する行為であつて裁判でないから、原裁判所においてなすべきもので当裁判所において代つてなすべきものではない。よつて主文のとおり
決定する。
相続法律相談 >
2014/4/27
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161