相続放棄後、相続放棄した者が、特別縁故者として遺産取得
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弁護士河原崎弘
質問:相続放棄後に遺産取得できるか
父が亡くなりました。遺産としては、自宅(約1億円)、預金(約3000万円)がありましたが、住宅ローン(約2千万円)、社長をしていた会社の保証債務(約28億円)があり、債務超過の状態でした。
母と私と弟は、弁護士に相談し、相続放棄をしました。
ところが、父の後に社長になった人が、会社の連帯保証人になったので、債権者である銀行は、父の債務を免除してくれました。
債務がなくなったので、私たちは、相続放棄を撤回し、父の遺産を相続したいです。法律相談行きましたところ、弁護士から、「相続放棄の撤回は、
できない。特別縁故者の申立をしたらどうか」と言われました。
特別縁故者の申立をすれば、父の遺産を取得できますか
回答:特別縁故者
相続放棄の申述をすると、
その後、撤回できません(民法919条
1項)。ただ、詐欺、脅迫、錯誤のより、申述した場合は、すなわち、取消事由などがあると、取消とか、無効の主張はできます。相談者の場合は、取消事由などがないようです。
相談者が、相続放棄した結果、相続人がいなくなったような場合は(次順位
相続人が、相続放棄するか、存在しない場合)、相続放棄した者も、特別縁故者として分与の申立ができます。相続放棄したことは、特別縁故者になる障害になりません。l特別縁故者として遺産の分与を受けるには、単に、法定相続人であったのではなく、次のどれかにあたる必要があります。- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
どのくらいの遺産が与えられるか、問題です。法律では、「残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる(民法958条の3、1項)」と規定されています。判例では、全遺産が
与えられた例も、結構、あります。
判決
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神戸家庭裁判所尼崎支部平成25年11月22日審判
(1) 本件は,被相続人の妻および長男である申立人らが債務超過を理由に相続放棄し,被相続人のきょうだいらも相続放棄したことで相続人不存在となり相続財
産管理人が選任されたが,被相続人の負っていた会社の連帯保証債務がその後免除されたことにより相続財産が残存する状態となり,これについて申立人らが特別縁故者
による相続財産分与を求めた事案である。
(2) 申立人らは,相続開始後に被相続人が巨額の連帯保証債務を負っていたことを知って申立人代理人弁護士に相談のうえ相続放棄申述をしたものであり,当時
の状況においてこの相続放棄申述はやむを得ない選択であったといえる。
(3) 特別縁故の実情について,申立人X1は妻として長年被相続人と生計を共にし,かつ被相続人の肝炎が判明しさらに肝ガンを発症してからは入通院の付き添
い,自宅療養中の介助など被相続人の全面的な看護を担ったといえる。申立人X2も,同居の家族として被相続人の療養看護に協力したことが認められる。
(4) 被相続人は申立人X1に自宅の土地建物を贈与しており,家族である申立人らが生活に困らないように財産を分与したいと考えていたことが推認できる。
(5) 以上のとおり,相続放棄は当時の状況からやむを得ない選択であったといえ,申立人らは家族として被相続人と生計を共にし,被相続人の療養看護にも努め
たことが認められる。これによれば,申立人らはいずれも,民法958条の3第1項の特別縁故者にあたるといえる。
分与すべき財産は,前記縁故の内容に加え,被相続人の負債が現在までになくなっていること,申立人らに財産を分与する被相続人の意思が推認できることを考
慮し,現在相続財産管理人が管理する相続財産から相続財産管理人に対する報酬その他管理費用を控除した財産全部を申立人らに分与することが相当である。具体的な分
与内容として,申立人X1が自宅土地建物を贈与されていることを考慮し,別紙物件目録記載の不動産すべてを申立人X1に分与し,相続財産管理人管理の現金から相続
財産管理人の報酬その他管理費用を控除した残額を法定相続分に従い2分の1ずつ各申立人に分与することとする。
- 広島高裁岡山支部平成18年7月20日決定
(4) 抗告人は,被相続人の長男であり,唯一の子供である。抗告人は,出生以来平成4年12月に被相続人の妻である自己の母が亡くなるまで,被相続人と同居生
活をしており,その後平成5年に婚姻して,現住所で生活するようになったが,被相続人宅は自己の職場の近所であったこともあって,3日に一度は被相続人宅を訪ね,
被相続人の生活に気遣っていた。被相続人は,平成12年ころから肺ガンで入院生活を送るようになったが,約1年間の入院期間中毎月5ないし6万円の入院費用を支払
い,週に1度は見舞いに行っていた。被相続人の葬儀は,抗告人が執り行った。
(5) 抗告人は,被相続人の死亡後,間もないころから,同人と生前に交際していたと主張するCから被相続人の負債について,執拗に弁済を求められたため,Cな
いしその関係者から際限のない請求がされることを危惧し,平成13年10月22日相続放棄の申述をしたが,相続財産についての清算が終了したので,相続財産分与の
申立てをしたものである。
(6) 被相続人の相続財産を清算した結果,別紙財産目録記載の財産を被相続人の相続財産管理人が管理している。
2 以上によれば,抗告人は民法958条の3第1項所定の特別縁故者にあたると認められ,その財産総てを抗告人に分与するのが相当である。
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2014.11.29
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